2015年1月6日火曜日

脚本選考評


 
選考委員の手塚宏二氏と関美能留氏の
選考評を掲載します。



[手塚宏二 演劇コラムニスト]

7本の応募作品はいずれも力作で読みごたえのあるものでした。

その中で私は最優秀作品に夏目邦夫さんの「錆色の瞳 黄金の海」を推しました。作品の完成度はもっとも高く、詩的な言葉で紡がれた台詞と構成は、作者の筆力の確かさを感じました。ストーリーは心温まる王道ファンタジーで、そのまま物語としていつまでも語り継ぎたいような作品でした。

ただ、今年の応募条件に「岡山のイメージや、ゆかりあるもの」という条件があり、それがわかりづらかった点で減点されました。また、劇団の脚本としてすでに公開済みのものだったということも若干減点で、公開済みの作品でもいいのですが、今年新たにスタートした岡山ルネスホール脚本賞として評価するには、それにふさわしい何かが必要でした。

一方風早孝将さんの「NewYorkMinutes」は脚本としては荒削りながら今後上演作品を作っていくなかで大きく育ちそうな可能性を感じさせるものでした。完成度としては劣るところがありながらも、作品全体からわき上がってくるエネルギーは、新鮮で、斬新なものでした。

「演劇ON岡山」という素晴らしい企画が今年でいよいよ5年目となり、その脚本審査が今回から「岡山ルネスホール脚本賞」として独立し、新しい演劇界の魅力ある賞が出来たことを心からうれしく思います。

東京から優秀な演出家を招き(近年は三条会の関美能留氏)、戯曲は全国公募し、キャストスタッフは岡山で募集して公演を打つというこの「演劇ON岡山」の企画はとても魅力ある企画です。その中で一昨年は劇団おぼんろの末原拓馬氏の「月の鏡にうつる聲」が上演脚本に選ばれ、桃太郎伝説のひとつのスタンダードとして、永遠に上演し続けたいほどの名作が誕生しました。そして、その作品の台湾公演までが実現したというところに演劇の不思議なパワーを感じます。素敵な作品はさまざまな奇跡を生むのです。

これからも岡山ルネスホール脚本賞が末永く続き、そこから日本を代表する脚本家が育ち、この賞が若手演劇人の登竜門として認知され、その賞により、岡山がますます有名になるという相乗効果を期待しています。



[関美能留 演出家。劇団「三条会」主宰 ]

応募された戯曲を声を出して読んでみた。

選ぶ戯曲は3月末に岡山市民とともに上演される私が演出することになっているので、選ぶ基準として、私自身が上演したいかということからは逃れられない。しかし、登場人物の人数や上演されるルネスホールとの適正といった限定する読み方はしなかった。新しい物語を岡山市のルネスホールで岡山市民とともに紡いでいく。種をまき花を咲かせ実を結ぶためには、エネルギーが必要だ。そんなこと考えながら読み進めた。

私は、風早孝将さんの「New York Minutes」を推した。昨年、この作者は私の演出助手を務めた方なので、逆にとても推しづらかった。そんな中でこれを推した理由は、読んで面白いものは他の戯曲にもあったのだけど、興味のひかれる意味の分からなさがあったからだ。大人っぽさと子供っぽさが両立している戯曲に思えた。私自身は「境界」にとても興味を持っている。大人と子供の境界を探りながら、演劇作品として立体化してみたいと思ったのだ。

まだ、この岡山ルネスホール脚本賞は始まったばかりである。これから、もっと多くの人に応募してもらって、賞自体もこれからさらに発展していくことを願っている。










 



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